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”頑張る”って、どんなこと?

随時更新中の小説を更新しました。
ラストの章の「white season~冬~」。この章は3つに分けますが、今回更新したのはその1回目です。
Four Seasons ~月の響きをききながら~


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先日紹介した「少年とアフリカ」という本の中で、坂本龍一さんが、小学生の頃に”将来なりたい職業”を書かされた際に「ない」と書いたということが載っていた。

いきなり、思いっきり親近感。

思い出してしまった。
私も幼稚園時代、聞かれた記憶もないのですが、知らない間に、
「大きくなったら何になりたい?」
と質問されていたらしく、そして園児たちの答えの一覧がプリントされて、親たちに配られ、何も答えていなかったらしい私は、
「なんで何もこたえないの!」
と怒られたことを。

当時の私は、
「聞かれた覚えもないのに」
と思いながら、
「確かに将来なりたいものなんて思いつかないな~」
と、こんな大人びた言葉じゃないまでも、このようなことを思っていたことを覚えている。
「将来なりたいものが思いつかない」というより、「大人になる自分が想像できない」という感じだった。

怒られたので、その後は、将来なりたい職業を聞かれると、
「ピアノの先生」
と答えていた。
そう答えておけば、怒られなくて済んだから。

でも、ピアノを習っていたとはいっても、私は自分の好きな曲以外は練習に身が入らなかったし、
あの、楽譜を読む、記号通りにひかなくてはいけないということに馴染めなくて、
上手に弾けたらいいなとは思いながらも、他人が作曲した曲に感情移入もできなくて、
弾くよりも聴くほうが好きで、レッスンに行っては先生に、
「弾いて弾いて~」
と、ねだり、先生に演奏してもらって、
「いいね~」
なんて感動していた。
「ちゃんと練習しないと、お母さんに言いつけるわよ」
と言われても、やさしい先生がそんなことをしないのはわかっていたので、
「言いつければいいじゃん!」
なんて返していた。全く可愛げのないガキンチョである。

楽譜通りに弾くのは苦手でも、自分で適当に曲を作ったりするのは楽しみながらやっていた。
まあ、凡人の小学生が作る曲は、それなりのものでしたが。

高校生の頃、当時のピアノの先生に(中学生の時は部活のため、レッスンはやめていた)、
「将来はどうしたいの?」
と聞かれ、私は妙に饒舌に、
「自分で物語もつくって、絵も描いて、絵本を作りたいんです!」
と答えた。
たぶん先生は、音楽関係の道に進むのかどうか確かめたくて聞いてきたのだと思うのに。

絵本も作りたかったけど、私は漫画家になりたいと思っていた。
夢を実現すべく、ペンを握らない日はないくらい描いていたけれど、私が絵を描いていたのは、自分で考えた物語を表現する手段にするためだった。
なのでプロの先生たちを目の当たりにして、絵に対する情熱の違いを思い知らされ、
「自分はここで勝負できる人間ではない」
と気付いてしまった時はショックだった。
目指していた夢が消えてしまった。
もう私には何もなかった。
全ての色がなくなってしまい、なにをしたらいいのか、なにを目指したらいいのかわからなくてぺちゃんこになってしまい、途方に暮れた。

とりあえず「働かなくちゃ」と、必死に自分を励ましながら、味気のない日々を送り、そして数ヵ月後に、
「そうか、表現する手段は絵を描くことだけじゃない。他にもあるんだ。私は、また物語を作れる! 夢は消えてなかったんだ!」
と気付いた瞬間には、嬉しくて嬉しくて、このことに気付けたことに感謝した。
色を失っていたモノクロの風景は、再びカラーになった。


しかしその後、夢の実現に関してだけじゃなくても、全然進歩がない自分について、
「自分は頑張りが足りないんじゃないだろうか」
と思うことがある。

とはいえ、実は私は、この”頑張る”という言葉があまり好きではない。
いえ、”頑張る”こと自体を否定しているのではなく、頑張るのは当たり前だから、敢えて、
「頑張ります!」
とか、
「頑張ったのに!」
とか力を入れて思ったり口にしたりすることじゃないと思っているのだ。
そう、私の中では、「頑張るのは当たり前」。

それでも、考えてしまう。
「頑張るってどういうことなんだろう?」
って。
「もっと頑張れ!」
と言われれば、
「頑張るって、一体なにをしたらいいんだろう、そもそも私は頑張ってないのだろうか」
と思うし、
「頑張らなくてもいい」
と言われれば、
「充分すぎるくらいヘナチョコなのに、その上、頑張ろうともしない自分にはなんの価値があるんだろう」
と思ってしまう。

「頑張るのは当たり前」
だと思っているのに、
自分が頑張っているのかいないのかもわからず、
どう頑張ったらいいのかもわからず、
気持ちだけが空回りしている。

なにをいつまでも思春期みたいなことを考えているのだろう。

頑張るって、どんなこと?
こんな疑問を胸に抱いたまま、こたえを見出せず、私はどんな意味があるのかわからない空間の中を彷徨っているのだ。


さて、冒頭にあげた本の中にも曲名が出てきた、坂本龍一さんの「Energy Flow」です。
すごい。なんでしょう、この圧倒されるような感覚。
音から紡ぎだされる感情、風景、空気……、
心を開いて、思いきり感じたいと思います。

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